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横山 泰子 教授 : 近著の紹介

怪談文化を考える。あなたは怖いものが好きですか?

「嫌いに決まっているじゃないか」と思ったあなた、少し考えて見て下さい。

放課後の学校や合宿などで、友達と「怖い話」をしたことがありませんか? マンガ雑誌で連載中の『ぬらりひょんの孫』や『夏目友人帳』を読んだことはないですか? 小説好きなら『しゃばけ』はどうでしょう? あるいは夏休みに遊園地でお化け屋敷に入り、キャーキャー言ったことはないですか? おぼえのあるあなたは、もしかして怖いものが好きかもしれませんよ。

妖怪手品の時代人間とは不思議な生物で、恐怖という負の感情を遊びに転ずることができます。恐怖感は人間以外の生き物も感じる感情で、それがあるからこそ敵から逃げて身を守ることもできるのですが、人間は恐怖を娯楽に変換するという何とも変なことをやっています。怖い物語をわざわざ作り本にして売ったり、ドラマで不特定多数の人に見せるなんて、実に奇妙な現象です。

私はこうした現象を「怪談文化」と名づけました。現代の日本は怪談文化が非常に盛んですが、類似の現象は既に江戸時代から見られます。当時の人々は怖い物語を語り、妖怪の絵を描いていました。幽霊が出現する恐怖演劇が流行し、お化け屋敷も存在していました。こうしたことから、私は現代の怪談文化の根は江戸時代に見出せると思い、文学作品や絵など、様々な資料を使いながら、怪談文化研究をすすめてきました。

最近は江戸時代の「妖怪手品」について調べました。当時の人たちは、仕掛けによって怪異現象を作って楽しんでいました。暗闇の中でろうそくを浮かび上がらせたり、お座敷に天狗を呼んだり、ろくろ首を出したり……。仕掛けを用いて様々な怪異現象を作り出す智恵に驚かされて調査した結果を、『妖怪手品の時代』(青弓社、2012年 写真参照)にまとめました。仕掛けとは技術であり、アイディアです。妖怪手品が繁栄する時代は、技術とアイディアが娯楽に用いられる平和な時代です。

近年は日本の怪談文化が海外の関心をひくようになり、より一層研究をすすめる必要があると感じています。