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鈴木 郁 教授 : 人間工学は創生科学科的各種手法の活用の場 #2
私の専門である人間工学に関連した、当研究室での研究例について述べる前に、自己紹介を兼ねて経歴等について述べさせて頂きたいと思います。次に、近年の研究や教育の一部を紹介させて頂きます。
近年の研究や教育(一部)
【高齢化社会に向けた研究例 ― 病院内ナビゲーション、とろみセンサ ―】
下部にカード読み取り機、手すりに情報端末を設置した車椅子。
実際に祖父母や親が入院した時に感じたことなのですが、大学病院などは広大で、目的地にたどり着くための経路どころか、自分が今居る場所さえ、わからなくなることがありました。とりわけ高齢の方には、このことが負担になると思われます。病院内ナビゲーションについては、廊下の各所に読み取り機と表示装置を設置し、患者さんが持ったカードの情報を読み取り、現在位置や進むべき方向を案内するシステムが存在します。しかしこれは、建物側に大がかりな設備を要し、費用面等で敷居が高いものとなっています。
また、屋外で一般に用いられるGPSについては、疑似GPS衛星とでも言うべき装置を屋内に設置しない限り、建物内では使用できません。そこで本研究では、建物には廊下の床などに安価なカードを貼り付け、患者さん側がカード読み取り機と情報端末を持ち歩くこととしました。実際には、カード読み取り機の大きさや、そして情報端末を持ち歩くことから来る負担を考え、読み取り機や情報端末を車椅子に設置し、車椅子専用のものとしています。
移動距離補間のためのセンサの例
表示された現在位置の例
カードは、交通系の非接触カードと同様な、RFIDと呼ばれるカードの一種を用いています。これは安価であることから、廊下の随所に貼り付けても大した費用はかかりません。現時点では、現在位置を地図上で表示するのみで、ナビゲーションまでの機能はありません。また、カード読み取り時にしか現在位置表示が更新できないため、角速度センサ等を用いて移動量補間し、連続的に現在位置表示を更新するべく検討を行っています。システム全体については知能(計算機関連)の、そしてセンサ廻りについては物理学の知識等が、必要とされます。
試作したトロミ表示装置(完全未発表のため、写真の一部を加工しています)
高齢者のなかには、嚥下反射や咳反射の能力が不足し、食物が喉に詰まりやすかったり、気管に唾液や飲食物が入りやすい方がおいでです。これらは窒息や肺炎の原因となることから、食品のトロミを調整することが行われています。例えば緑茶などの飲料については、市販のトロミ調整用食品を規定量(100gに対してスティック1本分、など)を添加することで、およそ目標のトロミにすることができます。
しかし飲料の量が正確に分からないといった状況では、調整後のトロミが適切であるかどうかの判断は、難しいものです。加えてミキサー食については、基となった食品にもトロミ等があるため、判断はなおさら難しくなります。そこで本研究では、センサを飲料や食品に差し込むだけで、トロミの程度を表示する装置の実現を目指しています。装置の実現には、電子回路の設計やプログラミングなどの能力が、必要とされます。
鈴木 郁